バスを待つ近未来

早くも梅雨いりです。
曇り空の下、紫陽花だけが光を放つ街角で、
バス停に椅子が置いてあるのを見かけました。
時折、ありますよね、
コカコーラのロゴ入りベンチとかでなく、
近所の人が自主的に置いたような、やけにプライベート感溢れる椅子。
しかも2〜3脚バラバラなものが並んでいたりします。
今日見たのは、いかにもプールサイドか海の家にありそうな白いヤツと、
灰色のいわゆる事務椅子と、
昭和のスナックみたいな丸っこいビニール椅子が、
横一列に並んでいる光景でした。
梅雨空のもと、そこだけやけにリゾート感漂う一脚と、
やけに経理のおじさん的一脚、
そして水割と歌謡曲が似合いそうな一脚が並んでいるのでした。
椅子の前にあるのは紺碧の海でもきまじめな仕事机でも、
バーカウンターでもなく、バス停の標識とアスファルトの道路。
アンバランスな取りあわせが小さなドラマを描いています。

椅子というのは、誰も座っていない時でさえ、妙に人間味があって、
ミステリアスな存在感があります。
だから使い古された椅子がバス停に並んでいると、
本来の目的である、人を座らせるためというより、
椅子そのものがバスを待っているような、
異なる人格と人生がバスを待っている感じがして、
どきっとしてしまいます。
さらに椅子の年代も様々。
今日見たスナックのような椅子は、
いかにも60年代の産物という近未来感満載のモダンなデザインでした。

20世紀初頭にドイツで生まれたモダンデザインが、
その後ヨーロッパで成長して世界中を席巻するようになったのは、
1950年代から70年代初期にかけて。
日本では昭和30年代から40年代の頃です。
服でいえばピエール・カルダンの宇宙ルック、
キッチン雑貨でいえば天然素材のザルが、
オレンジやピンク色のプラスティックに変わった頃です。
家具屋さんのショーウインドウに置いてあるソファやダイニングチェアが、
唐突にモダンになり、それがまた今にして思えばチープでポップでカラフル、
子ども心を刺激されたものです。
確かその頃、我が家に最初にやって来たダイニングチェアも、
背もたれとシートは真っ赤なビニールレザーでした。
これは当時、ものすごく出回ったタイプで、
先日も下町のラーメン屋さんで、黄色バージョンが、いまだに並んでいて感動しました。
欧米と違って最近までリサイクル思想が希薄だった日本では、
古いモノは捨てられる運命でした。
それをかいくぐって生き残る、あの頃のモダン家具に出会うと嬉しくなります。

箱根・芦ノ湖畔にあるプリンスホテルがリニューアルする前のレストランでは、
椅子がイームズのDSS-N、通称シェルチェアだったので少し驚きました。
(写真/下・左)
チャールズ&レイ・イームズはミッドセンチュリー(1940〜60年代)の、
アメリカを代表するモダンデザインの巨匠夫妻です。
北欧モダンの巨匠、アルネ・ヤコブセンと並ぶ、
ミッドセンチュリー家具界のアイコン的存在です。
しかもこのホテルの椅子は古くて、
まるで1950年にこの椅子がはじめて世に出た時に購入したのか?
と思えるくらい年期が入っているのでした。
西麻布や表参道の小じゃれたカフェにあると、
だから何、としか思えないイームズのシェルチェアが、
庶民的なビュッフェスタイルのレストランに、
しかも誰もこれが20世紀の名作家具だなんて知っちゃいないわ、
店のスタッフさえ(多分)気にしちゃいないわ、という忘れ去られた風情であることに、
味わい深くも感慨深いものを感じてしまいました。
(その後、レストランは改装してグレードアップ、今、この椅子はいずこへ?)

中央の写真は、日比谷にある日生劇場の椅子とテーブルです。
もうまさに60年代にタイムスリップしたようなリアルな遺産にして現役です。
1963年にこの劇場がオープンした当時は、高度経済成長のド真ん中。
その上昇気流に乗ったデザイン界の、アゲアゲだった意欲や勢いが感じられて、
甘く切ない思いにとらわれます。
ここはインテリアが舞台同様ドラマティックで幻想的な劇場で、
階段やテーブル、椅子といったものはオープン当時のデザインのまま。
60年代に子ども時代を過ごした者に取っては五感がノスタルジーで破裂しそうです。

一方、当時に較べれば豊かになった今の時代のモダン家具の取り入れ方は、というと。
昨年、箱根にある「彫刻の森美術館」のギャラリー・カフェで、
パントンチェアがずらりと並んでいるのには驚きました。(写真/下・右)
ヴェルナール・パントンはデンマークのデザイナー・建築家で、
これまたミッドセンチュリーの巨匠の1人です。
一昨年、日本でも回顧展が開かれたりしました。
これは1959年に発表され、
半世紀後の今なお斬新なモダンフォルムを誇るマスターピースで彼の代表作です。
モダンでありつつ、後ろから見ると足元がドレスや着物の裾のように優美です。
以前、京都の日本家屋に住んでいるフランス人アーティストが、
和室の畳の上に紫色のパントンチェアを置いている写真を見て、
いきなりモダン旋風が吹き荒れた昭和40年代を思い出しました。
我が家でもステレオとかソファは和室の畳の上に置かれていたものです。

当時の人々が近未来に思いを馳せ、様々に挑戦してきたデザインを見るにつけ、
あの頃の近未来にいる私たちがそのココロを受け継いで、
着実に前進して行かなかればと思います。
思い出は過去を振り返るためにあるのではなく、
未来を生きるためにあると、フランスの作家がいったそうです。

スーパーに昇級

 前回、このコラムでクールビズについて書いた翌日に、
「今年はスーパー・クールビズです」
というバージョンアップが環境省から発表されてびっくり。
より一層の軽装化を求めるということで、それによればTシャツでも無地ならOK、
ジーンズも穴があいてなければOK、なのだそうです。
ジーンズって、決して涼しくはないと思うのですが、まあ、カジュアル度の指標みたいなものなのでしょう。
チノパンもOKとのことですが、
すべてにおいて「だらしなくない程度」という注文がつけられています。
とすると、カーゴパンツなんかは?
原型は貨物船で荷物を扱う人たちの作業着ですし。
あるいはミリタリーパンツなんかは?
と、謎が深まるスーパー・クールビズの定義。
そして、いくら
「今年はスーパーなんですから、もっともっと軽くいっちゃってください、
ささ、遠慮なく」
と肩を叩かれても、Tシャツとチノパンで出社できる会社はそうそうないでしょう。
業種や部署にもよると思いますが、ほとんどのオフィスでは、
ノーネクタイやポロシャツが限度なのではないでしょうか?
環境省がいうわりに閣僚の方々だって、
テレビで見る限りみなさんノーネクタイ止まりです。
中にはきっちりネクタイをしている方もお見受けします。
テレビの報道番組のキャスターもネクタイ&ジャケット着用です。
枝野官房長官や細野首相補佐官、およびキャスターの方々が、
Tシャツとチノパンで登場すれば世間のコンセンサスも変わるかも、ですね。

 そういえば先日、テレビで外国人ジャーナリスト3人の論客が、
「原発問題を徹底討論する」という番組がありました。
もう終わりかけの時に見たので内容よりも、
登場する外国人ジャーナリストの日本語の流暢さと、
イタリアのテレビ局の極東特派員であるピオ・デミリアさんのおしゃれっぷりが、
印象に残っています。
50代半ばのデミリアさん、ちょっとメタボなボディラインで、
いかにもイタリアンな感じ。
でもよく見るとマルチェロ・マストロヤンニに似ていなくもない風貌です。
そのデミリアさんが淡いブルーのドレスシャツを着ているのですが、
ボタンは2~3個外して、もちろん下着はなしで、袖はラフにまくりあげている。
全体的にきわめてラフな感じで、
もはやだらしない領域に片足突っ込んでいるのですが、
なんともカッコいいし、大人の男の色気もあります。
イタリア人TVスタッフは全員こんな風にお洒落なのか?と思って、
デミリアさんが所属するSKY TG24というテレビ局の番組を、
you-tube でみてみると・・・そうでもないようです。
なんかもっさりした野暮ったいスーツを着てるおじさんもいるし
(ちなみに女性キャスターはえらく胸のあいたトップスという、日本だったら、
たちまち叩かれそうなファッションの人が多いようです)。
まあ、イタリア人だからといって、全員がファッショナブルでないのは、
日本人だからといって全員着物を着られるわけではないと、そんな感じでしょうか?
そうイタリア人といえばもうひとつ、全員がハイテンションで明朗快活、
そしておしゃべりというイメージがありますが、
インタビューでお会いしたパンツェッタ・ジローラモさんは、
見事にクールで控えめで言葉を選んで語るタイプのイタリア人でした。
 来日してもう長い年月が経つジローラモさんに
「今と昔で、日本の男性のファッションはどこが一番変わりましたか?」
と聞いたら、答えは「靴」。
 昔はほとんどのサラリーマンが、なんのしゃれっけもない靴を履いていたけれど、
今では若いサラリーマンを中心に、すごくお洒落になっているとのこと。
実際、近頃は電車の中で、若いサラリーマンの人がやけに先がとんがっていたり、
やけに先端までが長いフォルムの靴を履いているのをよく見かけます。
 足元にこだわることはファッションの仕上げでもありますし、
サラリーマンのお洒落アベレージが円熟の境地に入っているのかも知れません。
と同時に、これは私が感じていることですが、10年くらい前から、
カジュアルなイタリアンレストランやフレンチレストランで、
男性の1人客がパスタや鴨肉のソテーなんかを、
黙々と食しているのを見かけるようになりました。
グルメ志向の中年や高齢男性ならいざ知らず、
若い男性が1人でそういう店でご飯を食べている光景、
最初はちょっとびっくりしましたが、最近はもうよくある図になってきました。
定食屋、ラーメン屋、蕎麦屋、あたりが男性の1人客には入りやすいと思いますが、
そこにイタリアンやフレンチが加わったのは、
若きサラリーマンの靴が飛躍的におしゃれになった頃と時を同じくしているような。
(同様に、東京近郊ではどんな駅前にもあった蕎麦屋が続々消滅し、
代わりに「なんちゃってイタリアン」が増えてきたのも同じ時期という気がします)
で、カッコいい靴やシャツをカッコよく着こなせる人々は増えているのですが、
今から10〜20年後には彼らが、デミリアさんみたいに、
だらしない領域までのラフな着こなしを、
カッコよく洒脱にこなせる中年男性になっているのかも知れません。
ともあれ、かつてドレスシャツは下着も兼ねていたという歴史もあり、
欧米ではシャツの下に下着を着ないのが基本です。
この際スーパー・クールビズ精神にのっとり、
シャツ1枚で下着は着ないという冒険をしてみるのもおすすめ。
ただし日本の夏は暑いのでローションやパウダーなどの、
デオドラント(制汗)対策をお忘れなく。
 

クールビズ・アイランド

さて、風薫る5月です。
今年は暖かくなるのが遅くて、
4月に入っても小雪がちらついたり。
連休が過ぎて、ようやく初夏の雰囲気になりました。
そして梅雨があければ、たちまち暑くなるヒートアイランド。
そんな猛暑の街でも温室効果ガス削減のため、
われら国民は2005年から室温を28℃に設定することが求められています。
そこで政府から提案されたのが「クールビズ」でした。
28℃の室内でも涼しく仕事をするためのノウハウ。
とくれば、脳裏に浮かぶのは70年代後半に生まれた、あの省エネルックです。
羽田孜大臣着用の半袖ジャケットという衝撃的スタイル。
誰もが脳裏に浮かべながら、今ここで再現する勇気ある政治家がいないのは残念です。
ともあれシビアな節電が叫ばれ、
例年よりひと月早い5月1日にクールビズが始動した今年。
半袖ジャケットか、ハイパーメディアな高城剛さんのようなタキシードに短パンか、
どちらにしても悩ましい選択が迫られる熱い夏はすぐそこに。

去年も猛暑でしたが、関東地方などはここ数年、
つにインドを越えたとか、すでに亜熱帯とかいわれているのですから、
英国式の「真夏にスーツ&ネクタイ」は変革の時期なのでしょう。
というわけで、最近は夏場はノーネクタイ推奨という企業が多く、
ネクタイなしのVゾーンをいかにスマートに見せるかがポイントになってきます。
サックスなどブルー系のシャツは知的かつスマートな感じで、
ノーネクタイでも颯爽と見えそうです。
またチェックやストライプの身頃に白い襟が付いたクレリックシャツや、
襟周りにアクセントがあるボタンダウンは、
シャツ&ジャケットというノーネクタイの着こなしに威力を発揮してくれます。
そして素材は通気性のいいロイヤルオックスフォードなどがおすすめ。
涼しげかつスマートなシャツで、クールビズを乗り切ってください。

暑い時期のシャツの着こなしというと、
数年前の「Pen」というメンズ雑誌での「春・夏ファッション特集」を思い出します。
これは特集の全ページをブラジルのリオ・デ・ジャネイロで撮影したもの。
日本から持って行った衣装を、現地の男性に着てもらって撮影しました。
(ちなみに現地での撮影は友人がアレンジし、
私は日本で資料を受け取り、総勢32名の登場人物、1人1人の紹介文を書きました)。
モデルはプロのモデルに加えて現地で探した一般人。
エルメスの40万円のシャツをストリートミュージシャンが、
ドルチェ&ガッバーナの7万円の花柄シャツを警備員のおじさんが、
グッチの10万円のグラフィカルなテキスタイルのシャツを若い軍人が、
という具合にそれぞれ見事に着こなしています。
リオ生まれで「カリオカ」と呼ばれる男達は、とにかく全員、絵になります。
浅黒い肌と彫りの深い顔立ち。
絵にならないワケはないのですが、
造作よりその奥にあるソウルが顔に出ていて、
どんな服も自分の方に引き寄せてしまう我の強さがあります。
電気工のおじさんが「ジャン・フランコ・フェレ」の高級スーツを、
すっかり「いつも着てる一張羅」という雰囲気で着こなし、
ポーカーに興じていたりします。
スタジオではなく、市街地や公共の建物内での撮影という、
自然さも手伝っていたでしょうが、
「服は人生」とでもいうべき、とても見応えのある特集でした。
そんなクールな男達の中で一番記憶に残っているのが、
特集のトリをつとめた石職人のおじさんでした。
22歳の時に、電車もバスもない北部の町からリオに出て来て、
仕事を探し石職人になったのだそうです。
石畳の道路に石を敷くのがおじさんの仕事です。
「テレビは持ってないから、世の中のことは全部ラジオで知る」というパウロおじさん。
白いラコステのポロシャツを着てハンチングをかぶって、
イパネマ海岸を見下ろす舗道に立つおじさんの姿に私は見惚れました。
なんの変哲もない格好なのですが、おじさんの人生が現れています。
贅肉のない細い体は「子供の頃からよく歩いた」というヘルシーな生活習慣ゆえか、
テレビもないという経済状況がもたらす粗食ゆえか、
白いポロシャツの半袖から伸びる腕の細さや体つきがなんとも涼しげです。
22の時から50年間、道路に石を敷くことで生きて来たおじさんの人生は、
熱いブラジルの大地で、そこだけクールな空気感を醸し出しています。
「すっきり背筋を伸ばした立ち姿が、ストイックな人生をもの語る。
シンプルなポロシャツが、無言のドラマを映す瞬間だ」
その時書いたおじさんの紹介文です。

そういえば、リオの男達のオフィシャルシューズは「ハワイアナス」。
そう、ブラジル生まれのビーチサンダルです。
海パンや短パンにはもちろん、スーツにもビーチサンダルを履いたりするのだそうです。
これは理にかなったクールビズなのでしょう。
ハワイアナスのビーチサンダルは、
日本人の移民によってブラジルに持ち込まれた草履が原型になっているのだとか。
そして今や関東で最高に暑い日は、
リオ・デ・ジャネイロで最高に暑い日より確実に9℃暑い!
スーツにビーサンという寅さんみたいなサラリーマンが、
東京砂漠に出没する日も遠くない?
理にかなったクールビズかも知れません。

30年後のロイヤル・ウェディング

ロイヤル・ウェディングはご覧になりましたか?
今回は王室自ら「地味婚」と表現しているそうですが、
中継を見ながら本当に地味だわ、と思いました。
30年前のチャールス&ダイアナの時と比べて、色々な意味で。
あの当時も英国はやや不況で失業率上昇中、
かつ労働意欲低下中という時代背景のもと、
皇太子の結婚は世紀のビッグイベントとして恰好の盛り上げ要素でした。
当時、私はロンドンに住んでいたのですが、
いつになくノッているイギリス人を見て、
本当にこの人達は王室が好きなんだと再認識しました。
いつもはクールで多少アナーキーな友人でさえ、
アパートの隣のおばさんに
「結婚式の招待状は届いた?」とベタな冗談をふられ、
「招待状は届いたけど先約があったから丁重におことわりしたよ」
「あら、あたしと同じだわ」みたいな会話を交わしていたのを覚えています。
はては、ダイアナのおばあさんが官能小説作家だったから、
「彼女は結婚式に出席しないと言っている」
「いや、『招待状はもらったけど断ったと言え』と、バッキンガムにいわれたらしい」
なんて噂話も色々。
要するにほとんどのイギリス人にとってロイヤルファミリーは、
サッカーの試合や選手の噂話のような、
それさえすればたちまち打ち解けられる題材のようで、
ともかく王室は人気者なのでした。
もう国をあげてフィーバーしていたし、
海の向こうのことなのに、日本でも相当話題になったのではないでしょうか?
今回は震災の影響もあるのでしょうけれど、
このボルテージの低さは
日本の若い世代の内向き志向にも原因があるのではないかと。
あの頃、日本ではベイ・シティ・ローラーズやノーランズなんていう、
英国のポップ・グループが人気だったから、
イギリスは今より身近だったのではないでしょうか?
最近の日本では韓流とレディ・ガガ以外の海外勢は影が薄いですよね。

30年後の今、英国はまたしても不景気で、
王子の結婚は経費削減でパレードの距離を縮めたり、
花嫁のドレスのトレイン(引き裾)はダイアナ妃の時より5メーター近く短くなりました。
まあ、これはデザインの違いですけれど。
ハタチそこそこで花嫁となった元保母さんのダイアナ妃と比べて、
今回の花嫁ケイトさんは、もう29歳の大人の女性。
しかもアパレルメーカーのバイヤーをしていたというくらいで、
一般の女性よりはるかにファッションに敏感です。
結婚前のスナップを見比べてみても、素朴で少女っぽい格好のダイアナ、
いかにもファッション業界という洗練されたスタイルのケイト。
30年という年月を隔てて並び立つ2人のロイヤル花嫁はあまりに対照的です。

そしてウェディングドレスにダイアナが選んだデザイナーは、
ロマンティックな服を作ることで知られていた
エリザベス&デイヴィッド・エマニュエルというデザイナーカップル。
ドレスは大きなパフスリーブの袖や、
7メートルものトレインが特徴的なメルヘンタッチのもので、
若くてかわいいダイアナ妃にぴったりでした。
一方、ケイトさんがデザイナーに選んだのは、
「アレキサンダー・マックイーン」のチーフデザイナー、サラ・バートン。
ブランドの創始者であるリー・アレキサンダー・マックィーンは、
英国ファッション界の鬼才とも異端児とも言われたデザイナーで、
今やスタンダードと化したスカル(ドクロ)モチーフの生みの親です。
昨年、惜しくも自死したマックイーンの右腕として、
女性部門を担当していたのがサラ・バートンでした。
アヴァンギャルドだけれど古典的な面もある、しっとりしていてなおかつクールという、
イギリス独特の持ち味そのもののマックイーン・ワールドを今、担っている人です。
ケイトさんのウェディングドレスはV字に開いたデコルテと袖にレースをあしらった、
上半身こそ女らしくてエレガントなデザインですが、
ドレスのスカート部分の立体的なフォルムの雄々しいほどの美しさときたら!
バックスタイルも、張りのある素材がまるで大きく隆起する海原を思わせるような、
立体感があって、女性らしさや愛らしさというより、
アーティスティックで力強い魅力に満ちたデザインのウェディングドレスでした。
英王室が新しく選んだ選択が「アレキサンダー・マックイーン」だったという点にも、
時代の流れを感じます。

アナーキーで反骨精神たっぷりだったマックイーン。
自社のデザイナーがプリンセスのウェディングドレスをデザインする、
それがわかった時の彼のコメントを聞いてみたい気がします。
ちなみに彼は、今回のウェディングに招待されたエルトン・ジョン同様、
同性婚をしていました。
まあ、そんなこともマイナス要素にならないという点に、
英国社会の熟成した文化意識を感じます。
ところでYou-tubeで見たのですが、
エルトン・ジョンは同性のパートナーとともにモーニング着用で会場に現れました。
パープルのシルクタイ、明るいベージュのベスト、グレイのパンツというスタイリング。
シャツはフォーマル用なのでしょうがウィングカラーではありませんでした。
2人ともなんかゆるーい感じで微笑ましい。
一方、同じく招待ゲストのベッカムはモーニングにウィングカラーのシャツ着用で、
さらにトップハットも手に携えているというパーフェクトなフォーマルぶり。
あまりにもキメキメすぎで緊張しているのか、
あまり楽しそうじゃないベッカムとビクトリア。
そこへ行くと人のよさそうなパートナーのデビッド・ファーニッシュと、
にこやかな笑顔を見せるエルトン・ジョンのカップルは本当に幸せそうでした。
ロイヤル・ウェディングという世紀の結婚式に、
様々な「夫婦」の形を見た夜でした。

目指せ、ココロのアンチエイジング

仕事柄、色々な人に会います。
女性誌、男性誌、ファッション雑誌、インテリア雑誌などのモード系から、
生活情報誌や企業の広報誌まで関わっているので、
取材対象もインタビューする相手も千差万別です。
ヴィヴィアン・ウエストウッドにインタビューした帰り道、
世田谷区役所に行って「梅まつり」の写真を借り、
小田原で梅干し漬けてるおじさんにインタビューしたあと、
都心に戻りハリウッドの映画監督にインタビューするといった、
超メリハリのある仕事です。
そんな感じで色々な人に会うのですが、
みなさんそれぞれ、人物・ファッションともども味わい深いものがあります。
その中で純粋にファッション的に「おしゃれ!」と思った男性は?
というと、2人とも芸能人の方でした。
(一応、服飾を専門とするプロの人以外で)

お2人とも文化出版のミセスという雑誌の取材でお会いしたのですが、
1人は、堺正章さんです。
この方は、もう数十年前から「部屋にルオモ・ヴォーグ*が転がっているらしい」
とウワサがありました。
今でこそ、若手男性芸能人や一部お笑い芸人の方でもみなさんオシャレで、
私がお会いした中でも椎名桔平さんや小林薫さんなんかも、
プラダやグッチをサラリと着こなしていて、
パリコレのモデルみたいにスタイリッシュでした。
でも年配の芸能人でルオモ・ヴォーグを数十年前から愛読している人といえば、
やっぱりマチャアキ以外に思い出せない。
そして本物はウワサ以上にダンディーでした!
愛用のスーツはゼニア*だそうですが、高級スーツをバリバリと、という感じでなく、
肌に馴染ませてさりげなく着こなしている感じが、なんともお洒落(ここは漢字な感じ)。
英国紳士というか、英国の田園風景に似合いそうな、大学教授風印象。
お会いした時、とてもにこやかなのに目がマジメで、
あの有名な笑顔の奥に広がる深い深い土壌の存在を感じました。
それは知識とか経験とか智恵とか感受性とか、
いろいろな要素からできているのだと思うのですが、
そのうえで自分をどう見せたいかもよくわかっていて、
見事にセルフ・プロデュースできている。
なおかつ服はパッケージだということもよくわかっている。
叡智が生んだ隙のないスタイルという感じで、
おしゃれってこういうことをいうんだなと納得させてくれます。

そんな堺さんと対極ともいえるのが、
ナチュラル系あるいは脱力系お洒落キングと呼びたい三國蓮太郎さん。
もうダントツです。
まず取材の前に撮影があり、スタジオに現れた三國さん。
日本を代表する名優にして大スターにして日本映画界の重鎮ですよ。
そんな大スターが飄々と入って来る、
まずその軽やかな登場の仕方がなんともカッコいい。
もちろん日本人離れした容貌や身長にも恵まれているのですが、
服が極めつけにオシャレ!!
当日の私服は紺白の細い縦ストライプの綿ジャケットに、淡いブルーのTシャツ。
生成のコットンパンツに茶色いデザートブーツ!
ここがポイントなのですが、そのジャケットもTシャツも新品ではなく、
いいかんじに着込んである。
普通、ピカピカの若造ならヨレた服を着ても、それなりにおしゃれに見えますが、
年齢を重ねた人がヨレた服を着て輝けるというのは、並大抵のことではない。
全身お洒落パワーに満ちたボディーと顔つきをしていなくては、
たちまちヨレヨレカモフラージュに覆われて、くすんでしまうのです。
それがまあ三國さんと来たら、着慣れたシャツが逆になんとも粋で、
パリやミラノの町角で擦れ違う洒落者おじさまというかんじ。
もちろん撮影のバリッとした新品衣装も見事に着こなしてしまう。
さらに、表情や語り口調、仕草、物腰、すべてにフェロモンが漂っているのでした。
そのフェロモンすなわち、女性、あるいは生物全般に対する包容力ではないか、と思いました。
「僕自身も含めて、年寄りは信用してないから、できるだけ若い人の話を聞くようにしてるんです」と三國さんはおっしゃった。
仕事で知り合ったロック・ミュージシャンを家に呼んで色々話をして、
すごく楽しかった、という話もされていました。
当時80代半ばのおじさまが、ですよ。
未知のもの、新しいものへの興味や好奇心が三國さんを若々しく保ち、
フェロモンを形成して周囲の生物を引き付けて、さらに若々しくなって、のような。
しかも話すほど柔軟で少年ぽい、ピュアな部分が浮きぼりになって来ます。
魅力的に年を重ねる秘訣は柔軟さにあるんでしょうか。

ともあれ、かたや隙のないスタイリング、かたや脱力系スタイリングと、
一見異なるお二方ですが、その基本であるボディーにパワーがあるのは同じ。
そしてファッションは生き方そのもの、と改めて思わせてくれます。
私も、着古したシャツとジーンズでおしゃれに見えるおばあちゃんを目指したい・・・と淡い夢を。

*L’uomo Vogue イタリアの男性ファッション雑誌です。
*ゼニア イタリアの生地メーカーがはじめたオーダースーツやアパレルの高級メンズブランド。

いとしのロンドンストライプ

木々に咲く花が次々に目を楽しませてくれるこの季節。
東京は桜が葉桜に変わり、八重桜が美しい時季になりました。
今年はお花見を自粛せよ、いや、その必要はない、なんて言われましたが、
そんな世間の声にはおかまいなく、時季がくれば花は静かに咲き、
春という再生の季節の力強さを教えてくれます。
今年は特に、花の暖かみを感じるというか、
いつにもまして、ココロを癒してくれる気がします。
すべての人たちが、来年の今頃は穏やかに花見の季節を迎えていられますように。

さて、そんな春先。
霞たなびくうららかな日には、
いつも黒や紺系に走りがちな人でも(私もそうです)、
さすがに生成やベージュの淡い色のジャケットが恋しくなるのではないでしょうか。
(私もそうです)。
ベージュのジャケットとくれば、
シャツは爽やかなブルーのロンドンストライプあたりを合わせたくなります。
このロンドンストライプというのは、知的にしてスマート、
しかもストライプの持つ若々しい印象に、
独特の色気が醸しだされると思うのは私だけでしょうか?
というので、超個人的な判断基準ですが、
青系のロンドンストライプシャツは、かなーり男前度がアップすると思います。
しかもこのシャツ、正統派で着こなしても、カジュアルに着こなしても、
同様におしゃれでスマートな感じがする、1点で十分存在感のある、
パワフルアイテムのひとつではないでしょうか?

これまでに記憶に残るロンドンストライプシャツの着こなしといえば。
一人目は、昔、表参道にあった友達のセレクトショップで見かけた男性。
顧客というその人は、ロンドンストライプのシャツにベージュのスーツを着て、
全体的にトラッドな印象のスタイリングでした。
ところがその襟元には、なんと可憐な花柄のネクタイが…。
植物画のようなクラシカルで具象的なタッチで、
バラやアネモネが描かれたネクタイです。
その男性はかなりふくよかなタイプで、一見モード系な体型ではないし、
顔つきもおしゃれ系というより、TKOの木下さん(ボケのほう)的な・・・。
その「木下さん」が植物画ネクタイ効果で、
なんとも味わい深くスタイリッシュな人物に見えたのでした。
彼が出て行ってから友達に「すっごくおしゃれじゃない、あの人? あのネクタイすごい!」
というと「あれは多分古いグッチじゃないかな。あの人ああいうの、パリやミラノ行って見つけてくるんだよね〜。この前はヴィヴィアン(ウエストウッド)のバンビ柄のネクタイしてたよ」とのこと。
ごく正統派のスーツやシャツ+個性派ネクタイ、あるいは個性派カフス。
そんな上級のおしゃれに挑戦してみては?

二人目は、代官山で見かけた青年。
彼はロンドンストライプのシャツに、紺地のリボンタイをしていたのですが、
それが、かわいいモチーフを色々織りこんだチロリアンテープ風のタイなのです。
その上に紺色のロングコート、ロールアップジーンズに茶色のローファーという、
さりげな〜いスタイリングなのですが、
ストライプシャツの知的な世界をチロリアンテープで、
「男のメルヘン」にしてしまった彼のコーディネートもまた忘れられません。

そして最後の一人は、とあるレストランのパーティで見かけた男性。
彼は少々光沢のあるチャコールグレイのスーツに、
ロンドンストライプのシャツという、これまたなにげないコーディネートでした。
ところがネクタイではなく、紺地にワインの水玉模様のシルクスカーフを合わせています。
しかもアスコットタイのように首元で結んでいるのでなく、
シャツの上から大判のスカーフをして前を重ね、その上にジャケットを着た感じ。
スーツの襟にそってスカーフが見えます。
そう、よくコートからマフラーがみえている感じです。
特にイケメンというわけでもない、一見フツーのおじさんなのに、
スカーフのあしらいがフツーじゃなくてカッコイイなと密かに見ていると、
そのうちライブバンドのラテン系な音に合わせて、
一人軽やかに踊りだし、すこぶる踊れるおじさんでびっくり。
やっぱり、男の人の魅力のひとつにギャップというのがありますね。
意外なコーディネート、意外な行動。
女子のハートがキュンとなるのはこんな瞬間です。
ともあれ、寒くもなく暑くもなく、
春はあれこれおしゃれにトライするのに最適な季節です。

ピンクのドレスシャツのメッセージ

東北関東大震災で被害に合われた方々、ご家族の方々に心からお見舞い申し上げます。

一日も早い復旧と復興をお祈りしております。

はじめまして。

今日から、ここでコラムを書かせていただくことになりました。

ドレスシャツに関係することも、ほぼ関係ないことも、

アレコレさまざまな世界を「空飛ぶ魔法のシャツ」に乗って、

いっしょに見に行きませんか?というのがタイトルの意味合いです。

これから、どうぞよろしくお願いいたします。

ご存知のように、3/11を境に、東北や北関東の方々の生活は大きく、

私の住む東京での生活も、少し変わりました。

もちろん、東北で被災された方々の境遇とは比するべくもありませんが。

一番大きな変化は停電と節電です。

デパートやスーパーマーケット、コンビニの店内も照明が抑えられていて、

街全体がどんよりしています。

でも、人通りはそのままで、みんな居酒屋やレストランに入っていくし、

普段より暗いショッピングセンターのショップでは、

お客さんたちが普通に洋服や雑貨を選んでいます。

そうした欲求や欲望が、経済を回して行く要因のひとつだなあと、

いつになく思いました。

そういえば、震災前も不況と言われましたが、

グルメ取材で銀座や六本木の有名レストランに行くと、

相変わらず「予約が取れない店」のままという所が多いのでした。

中でも客単価3万とか5万とかするような麻布の人気懐石料理屋は、

取材中もひっきりなしに予約の電話が鳴り続け、

もう今夜はいっぱいですと申し訳なさそうにことわっているのです。

そういう店のオーナーシェフや板前さんは、

本当に切磋琢磨しておいしい料理を作っています。

その真剣で情熱的でプロフェッショナルな仕事ぶりから生まれる料理は、

やはりおいしさの底力が違うわけで、不況であろうと人々を惹きつけてしまう。

これからの時代は、こういう本物でないと生き残れないんだと、

まざまざ見せつけられた感じがしました。

土井縫工所のドレスシャツも、ここならではのクオリティーが、

ジワジワと認知されつつある今日この頃です。

この所、テレビのACのコマーシャルで毎日、

応援のメッセージを力強く伝えてくれるトータス松本さん。

このサイトのBlogでも書いてありますが、

トータスさんが着ていらっしゃるピンクのシャツは、土井縫工所のものです。

タイトフィットのダーツモデルで素材はブロード、カラーはセミワイドスプレッド、

カフスはノーブルタイプ、というもの。細身のスーツに最適なモデルですね。

トータスさんの暖かい関西弁と、タフな口調、凜としたパワフルな声で、

「絶対やれる!、信じてる!」と言われると、元気が出ます。

その、個性的な風貌とボルテージの高いホットな画面を、

黒いジャケットがいい具合に引き締めています。

そして画面中央ではピンクのシャツが優しい雰囲気を醸し出していて、

シンプルなのに効果的なスタイリングになっています。

トータスさんの背景に高速道路が写っているのも、躍動感があっていいな、

街の復旧や復興を示唆しているのかな、と思いました。

トータスさんのヒット曲のように、

♪ガッツだぜ パワフル魂!の精神は今後の復興に必要不可欠なものです。

でも、終戦後と違うのは闇雲に突っ走るのではなく、

人に優しい世界づくりということになるのでしょうか。

というわけで、パワフルなソウルをあえて柔らかく包んだピンクのドレスシャツが、

「今後の復興は強く・優しくが肝心」

というメッセージを伝えてくれたような気がしました。